天国と極楽







オカンからメールがきて、そのレスがうまく書けたので紹介しておきます。



[from オカン]

きのう法然院に行ってきました。
お彼岸の法要の会がありました。もちろんお墓もお参りしてきました。法上さまのお話もありました。
また天国と極楽(お浄土)のことをおっしゃってられました。


死んだらどうなりますか。と聞かれたら仏教では天国へ行くとは云いません。極楽浄土にいきます。法然上人はただひたすらにお念仏をあげれば救われます。お浄土に行けます。と説いておられます。


法上さまはとても落語がお好きだそうで、NHKの朝のドラマ『ちりとてちん』をいつも見てられるそうです。とてもおもしろいのですが、一つだけ気にいらないことがあったそうです。それは古典をわきまえているはずの落語家でさえ極楽浄土ではなく天国といっていたことだそうです。普段からあまり形式とかにこだわらない和尚さんですがこのことだけは引き下がれないようです。


このドラマに出ている一番弟子の役をしている落語家をよくご存知だそうでこんど4月10日に法然院に呼んで落語会をなさるそうです。なかなかおもしろい和尚さんです。



[to オカン]

法然院の法上さまは本を出してますよ。


ありのまま―ていねいに暮らす、楽に生きる。

ありのまま―ていねいに暮らす、楽に生きる。


欲しかったら言ってください。送ります。



さて、そうそう《天国》というのキリスト教の言葉で、仏教では《極楽》ですね。実は最近、僕も仏教を勉強しているので、そのあたりはけっこう精通しています。



仏教vs.倫理 (ちくま新書)

仏教vs.倫理 (ちくま新書)



俗に日本の仏教は「葬式仏教」とネガティブに言われることが多いです。仏教が本質的にではなく、形式的にしか受容されていないという悪い意味で。だから死後の世界を「極楽」ではなく、「天国」なんて平気で言ったりします。でも最近では、この「葬式仏教」を日本独自のものとして、ポジティブに考える動きも出てきているそうです。



がんばれ仏教! (NHKブックス)

がんばれ仏教! (NHKブックス)



日本では、誕生のときの宮参り、七五三、結婚式など、人の成長に関わるイニシエーション的な慶事は「神道」が担当して、葬式と死後の法要など、死と関わる弔事は「仏教」が担当するという分業体制がなりたっています。これは平安時代頃に萌芽が見られるらしく、かなり根深く日本人に浸透しています。


これは神道、仏教それぞれに利点と欠点があり、それを相互補完するかたちになっているのです。そもそも仏教は死と死後についての対応がしっかりしている反面、現世否定的な傾向が強く、とりわけ性や生殖に対して否定的で十分な評価を与えて来ませんでした。一方、神道は土着の農耕儀礼などに由来する要素を多く持ち、豊かな実りと繁殖、また子孫繁栄が願われてきました。それゆえ、性や生殖を重んじ、生命を慈しみ、育てることに高い価値を置いています。


さらに、この両者に加えて、最近では結婚式はキリスト教式が増えてきており、昨今の日本では「神仏キ」という複雑な重層構造が見受けられます。しかしながら、これら三者の間に積極的な対話が見られるようになれば、より豊かな社会が育まれるのではないかという意見があるのです。




さてさて法上さまに一言、返してあげればよいのです。


昨今の日本では、神仏キの重層構造が見受けられます。仏教もオチオチしておられませぬぞ。「葬式仏教」だっていつまで続くや分かりませんよ。その証拠に、死者に呼びかけるのに「天国に行ったおばあちゃん」や「天国の○○ちゃん」なんてテレビでも巷でもよく言われているじゃありませんか。これは死後の世界観もキリスト教的なイメージが強くなってきている、仏教の影響力が弱くなってきている現れかもしれませぬぞ。葬式=仏教の独占とは限りませぬ。そのうちお寺さんも淘汰されリストラなんてことも。。。仏教もしっかりやってくだされ(笑)。

※ このレスに関しては、末木氏の著作に多くを負っています。末木文美士著『仏教vs. 倫理』ちくま新書、pp.162-165 , pp.237-240を主に参照しました。



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