青年団『もう風も吹かない』
《演劇》青年団
タイトル: 『もう風も吹かない』
作・演出: 平田オリザ
■■出演
志賀廣太郎 島田曜蔵
村井まどか 高橋智子
ブライアリー・ロング
山内健司 富田真喜 太田宏
重岡漠 伊藤毅 森山貴邦
中村真生 河村竜也
長野 海 / 齋藤晴香
小林亮子 菊池佳南 堀夏子
石橋亜希子 由かほる 大竹直
荻野友里 井上みなみ
■■スタッフ
舞台美術:濱崎賢二 舞台美術監修:杉山至
照明:伊藤泰行 山岡茉友子 衣装:正金彩
舞台監督:中西隆雄 振付:白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)
宣伝美術:工藤規雄+村上和子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁 宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:林 有布子 服部悦子 金澤昭
■■日程・場所
【東京公演】
2013年11月7日(木)〜 11月18日(月)@吉祥寺シアター
【三重公演】
2014年1月18日(土)〜 19日(日)@三重県文化会館
【伊丹公演】
2014年1月24日(金)〜 27日(月)@AI・HALL
【善通寺公演】
2014年1月30日(木)〜 2月1日(土)@四国学院大学ノトススタジオ
【富士見公演】
2014年2月8日(土)〜 9日(日)@富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
《感想文》
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(1)
今までオリザさんの戯曲のマイベストは『冒険王』だったけど、『もう風も吹かない』が一番になった。それくらい、この作品は僕のこころにずっしりと重たくのしかかってきた。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(2)
『もう風も吹かない』と『冒険王』の比較は改めて。
それよりもまず、今日は青年団の俳優陣の演技を堪能できたことを報告したい。劇中、空気の変わり目がいくつもあったのだけど、その変化を肌で感じることができた。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(3)
男性陣
志賀廣太郎さんの年長者としての味わいのある語り。大竹直さんとみんなとの見えないけどはっきりと分かる距離感。山内健司さん、きょうはいつもと違って案外いい奴じゃん(笑)。し ま だ! 空気読めよ トホホ…
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(4)
女性陣
小林亮子さんはまんま体育会系キャラで場の空気つくるなー、井上みなみさんは今までと違って演技の幅が広がったなー、あ、あと荻野友里さんが滝川クリステルにすごく似ていて、心のなかで「お・も・て・な・し」とセリフを補ったり(笑)
青年団「もう風も吹かない」は、石橋亜希子にぎりぎり胸を締めつけられた。かつて背中で語るのは男と相場が決まっていたが、女の背中が何かを負うと決めるのは、こういうときなのかもしれない。でも、叶わないかもしれないし、崩れてしまうかもしれない。その危うさが苦しくてたまらなかった。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(5)
それから、今日チケットを受け取る時に劇団員の方が「いつもありがとうございます」とさりげなく声を掛けてくださった。うれしかった。また観に来ようと思いました。ありがとうございました☆
《感想文》:失われた私たちの外部感覚
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続1)
『もう風も吹かない』は、青年海外協力隊(JICA)の隊員が海外に派遣される前に過ごす研修施設を舞台にしており、『冒険王』と同様に、若者の不安を描いた作品である。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続2)
では、同じく若者の不安を描いた『冒険王』と『もう風も吹かない』とのどちらがリアルに感じられたか? 私にとっては、圧倒的に『もう風も吹かない』だった。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続3)
『冒険王』では、1980年に海外へ放浪の旅に出た若者が、冷戦状態が悪化したイラン国境付近で足止めをくらって行き場を失っている。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続4)
対して『もう風も吹かない』では、日本の国力が弱まり、JICAの派遣が今回で打ち切られるという設定になっていて、研修施設にいる隊員は思う。「もう終わると分かっているのに海外へ行ったところで役に立てるのか?」、同じく行き場を失っている。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続5)
『冒険王』と『もう風も吹かない』における行き場を失った若者の不安は、非常によく似ている。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続6)
ちなみに、『冒険王』と『もう風も吹かない』における海外志向の若者のメンタリティは、いわゆる昨今のグローバル化(世界の内部化)とは一線を画している。そういう意味でもよく似ている。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続7)
では、なぜ『冒険王』よりも『もう風も吹かない』の方が、私にはリアルに感じられたのか?
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続8)
まず個人的な話をすると、実は私も青年海外協力隊(JICA)に参加するつもりだったのだ。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続9)
結局2つの理由で断念したのだけど、1つは健康診断でNGがでたこと。ただ、これはうまく誤摩化そうと思えばできたので、本当の理由ではない。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続10)
もう一つが本当の理由で、それは両親が反対したことだ。反対というより否定したのだ。これはかなりショックだった。なぜなら父親は「自分のためではなく人のために働け」と言ったり、「海外にでも行って経験を積んでこい」と常日頃から言っていたから。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続11)
しかし父親と話しているうちに、どうやら父親が言う海外というのは、「欧米の大学に留学すること」にほぼ限定されていることが分かった。父親は型にはまることを嫌がるタイプだと思っていたのに、「ああ、そういうものなのか」とすっかり冷めてしまった。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続12)
その後、親戚や知人に「青年海外協力隊に参加しようと思っている」と話したのだが、「そうか、がんばれ!」と言ってくれる人はほとんどいなくて、意外にもみんな否定的だった。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続13)
両親の反対を押し切ってまで行こうとは強く思わなかったので行かなかったのだが、てっきりみんな賛成してくれると思っていたのに否定されて、「えっ!? よのなかって、こんなもんなのか」と世間の思考水準がどこらへんにあるのか、わかった気がした。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続14)
さて、個人的な話はこれくらいにして、『冒険王』と『もう風も吹かない』について改めて考えてみる。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続15)
『もう風も吹かない』は2003年に書かれたにも拘らず、JICAの派遣が打ち切りになるという設定だ。JICAが先頃の事業仕分けの対象となり、その是非が問われた状況からして、詳細は違えど、ほぼ予言的中、2013年の今を描いていると言える。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続16)
つまり、『冒険王』が1980年という過去を描いているのに対し、『もう風も吹かない』は2013年の今を、しかも2003年という10年前の過去に描かれていたという点で二重にリアルに感じられる。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続17)
しかしそれだけではない。『冒険王』で海外を放浪している若者は「そとこもり」であって、社会参加を拒絶したモラトリアムである。対して『もう風も吹かない』の若者は、放浪ではなく仕事として海外へ飛び出す社会人である。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続18)
ここが捻れている。社会人と言えば聞こえはよいが、海外へ飛び出すというメンタリティからすれば、誰の支援も受けず、先のことなんか考えもせずに日本を飛び出した『冒険王』の若者の方が筋を通していると言える。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続19)
また劇中のセリフでもあったように、隊員にとって海外へ行くのは、他人を支援すること以上に、自分探しの要素が強いのも事実だ。政府のお墨付きの自分探しとは、これ如何に? 相当捻れている。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続20)
マザー・テレサや緒方貞子さんの活躍もあって、青年海外協力隊の活動が長期に渡って後押しされてよかったと思う反面、不釣り合いに綺麗なJICAの施設などを見ると「これでいいのだろうか?」と確かに疑問も生じる。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続21)
実際に、事業仕分けで突っ込まれたように、青年海外協力隊の費用対効果を厳密に問われれば、実証は難しいだろうし、これは弱者救済というPC(ポリティカル・コレクトネス)によってのみ、かろうじて成立しているとしか言いようがない。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続22)
さて、こうやってロジカルに追い込んで行けば、その帰結として、「社会参加を拒む者など切り捨ててしまえ」「成果を実証できないJICAなんて止めてしまえ」ということになる。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続23)
しかし、この論理は一見合理的で、スッキリするように見えるが、同時に思考の限界を露呈している。つまり上記のロジックでは、「社会=内部」が前提化されており、「外部」の思考が欠落している。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続24)
『もう風も吹かない』を通じて、私たちは、「外部」に対する感度が極端に落ちていることをリアルに痛感する。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続25)
グローバル化という世界の内部化現象が、私たちの外部に対する感覚を機能不全に陥らせ、世界を益々見えづらくしている。
【演劇】青年団『もう風も吹かない』(続26終)
『もう風も吹かない』は、2013年の今、私たちに「外部」を突きつける。
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