ままごと『スイングバイ』




 


 ままごと




 スイングバイ



 作・演出:柴幸男


■■ 出演


飯田一期 いしお 板倉チヒロ


折原アキラ(青年団) 菊地明香(ナイロン100℃


島田桃依(青年団) 菅原直樹(青年団


鈴木燦 高山玲子 能島瑞穂(青年団


野津あおい 森谷ふみ(ニッポンの河川)



■■ スタッフ


舞台監督:佐藤恵 美術:青木拓也 照明:伊藤泰行


音響:星野大輔 衣裳:藤谷香子(快快)


ドラマトゥルク:野村政之 演出助手:白川のぞみ(てとあし)


宣伝美術:セキコウ


制作補佐:荒川真由子、杉山沙織、野田奈々恵、渡邊由佳梨


制作:ZuQnZ with 赤羽ひろみ 製作総指揮:宮永琢生



■■ 球場


こまばアゴラ劇場



■■ 会期


2010年3月15日(月)〜3月28日(日)



■■ チケット


こちら





 《感想文:もっと遠くへ》






前作の『わが星』はすっごく気持ちいい作品でした。「なんでこんなことができるの?」「どうやって稽古してるの?」という驚きから始まり、ラップのリズムに乗って韻を踏みながら語られる台詞の心地よさ、音楽、イリュージョンでもスペクタクルでもない、今まで観たことのない世界に包まれた幸せ。観劇してから時間が経った今でも、劇中で流れていた口ロロの音楽を聴きながら、あの幸せな感じを何度も反芻しています。


そして今日『スイングバイ』を観ました。会社のお話。「わが星」→「わが社」。なんだかスケールダウンしたように思うかもしれないけど、全然そんなことない。わが社だけど地球規模のはなし。イヤ、ほんとに。


さてさて感想。


じつは序盤はかなり戸惑いました。正直どう見ていいのかがさっぱり分かりませんでした。『わが星』の幸せ感そのままで劇場に来てしまい、あの幸せ感を始めから求めてしまうフライング状態だったので、序盤は『スインングバイ』の流れになかなか乗れませんでした。よくよく考えれば『わが星』を観劇していたときも序盤は「なんだこれ?」という半信半疑の状態だったのです。おそらくこれから観劇する人も同じような状態になるでしょう。「なんだこれ?」「部活か?」「人類史か?」と迷い、どうやって乗っていくかを自ら探り当てないといけません。


ネタバレは基本的にやりたくないけれど、『スイングバイ』は様々なイメージが錯綜していて、全体像を把握できないような、《森》のような作品なので、いくつかのルートを紹介してもいいでしょう。これから観る人は《森》で迷わないための参考にしてください。


  《ルート1》演劇界の文脈



平田オリザの作品青年団


    ↓


岡田利規の作品チェルフィッチュ


多田淳之介の作品(東京デスロック)


    ↓


■ 柴幸男の作品(ままごと)

観劇中、葛藤があります。「この作品面白いのか?」「受け入れられる/受け入れられない」「乗れる/乗れない」「○/×」。どっちに転ぶか分からない。


僕は『わが星』は◎だったけど、乗れなかった人もいます。×の人もいます。『スイングバイ』も僕は○に行ったけど、×へ行く人もいるでしょう。《チェルフィッチュ》なんかはもっとそれがはっきり分かれるみたいです。《東京デスロック》も。○の人と×の人。勝負といったら変だけど、どっちに転ぶかは観劇しているなかで決まっていく。これは観る方もそうだけど、舞台にたっている俳優も戦っているようです。僕が観たのは2日目でしたが、まだまだよくなっていくんじゃないかって思います。なんてたって《スイングバイ》だもん。

 《ルート2》俳優




今回の俳優は面白いメンバーが集まっています。昨秋の公演で、前田司郎さん(『生きてるものはいないのか』、「生きてるものか」)、神里雄大さん(『ヘアカットさん』)といった個性派の劇作家の作品に出演していた俳優たちが柴幸男さんの元にやってきたのです。



例えば野津あおいさんや菅原直樹さんは『火の顔/松井周(サンプル)』や『生きてるものか(前田司郎)』に出演していた名優です。断っておくと僕の感想では『火の顔』をあまり評価していません。しかし、それは戯曲自体が好きになれなかったということです。舞台美術や演技は物凄かったんです。特に菅原直樹さんの演技は今でも脳裏に焼き付いています。あの白塗りした少年の恐怖の叫び声は今でも僕を襲ってきます。



それで観劇後、菅原直樹さんと話したんですが面白いことを言ってました。



松井さんや前田さんの演出はほとんどが《演技》についての指示です。その指示には違いがあって、松井さんは「具体的にこういう感じでやって欲しい」と言うし、前田さんは「極力演じないように演じて欲しい」と言う。


他方、柴さんは演技については口出ししない。ほとんどが段取りの指示なんです。ま、演出家によってこうも違うと演出家の仕事っていったい何なんだ? っていう話ですけど。。。

面白いでしょ。松井周さんや前田司郎さんの作品を観たことがある人は『スイングバイ』と比較して観ると面白いと思いますよ。

 《ルート3》柴幸男



折原 柴君は考えるスピードが早いから、「これをやりましょう、次はそれを」ってすぐ先に進んでいく。あまりの早さに、ちょっと演出家の狂気を感じることもあります(笑)。


板倉 柴さんは、リンクのさせ方がうまいなと思う。例えば手前に2つ、遠くに1つ「何か」があるとしたら、手前の2つのリンクは誰でも思いつくんですよ。でも柴さんは、手前の1つと遠くの1つをリンクさせることをずっと考えてる。で、それがリンクできるとなれば、手前の2つもリンクさせて、この3つで何か新しいことをやろうと。そのスピードがすごく早い。


板倉 柴さんは「チームワークの良さを大事にしたい」って話もしてて、「一人の天才が見せるすごさと、数人がチームワークで見せるすごさとを比べてみたい」って。それはすごく面白い考え方だなと思うんです。僕らは一役者として、もちろんそれぞれにいい演技を目指すんだけど、同時に団体として、作品全体のまとまりも考えなきゃいけない。そのバランスが、例えばプロデュース公演だとなかなか難しいと思うんだけど、今回はそこがうまく回っている感じがして。


能島 柴さんは組み体操も歌も一緒にやってるから、なんだか一列に並んで一緒に稽古してる感じですよね。

 《ルート4》SFとミステリ




※《秋の演劇フェア》で柴幸男さんに選書してもらった本とコメントが今回の『スイングバイ』を観る上でも参考になります



コメント 「見ること、観察すること、視界」などかなり拡大解釈して選書してしまいました。視界がトリックになってる本格ミステリとその他って感じです。



 《見ること関連》



倒錯の死角 (講談社文庫)

倒錯の死角 (講談社文庫)


覗きをモチーフに見ること、見られることがトリックになっているミステリ





実況中死 (講談社ノベルス)

実況中死 (講談社ノベルス)


他人の視界をジャックしてしまう超能力者が殺人を目してしまうSFミステリ





ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)


何がどう「見る」ことと関連しているのか言ったらネタバレになってしまう本格ミステリ





  《見ること&自分の趣味の合体》



火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)


火星の植民地がはじまって終わるまでを観察したように年代記つづったSF




棒がいっぽん (Mag comics)

棒がいっぽん (Mag comics)


短編集「美しい町」「奥村さんちのお茄子」が僕の中では見ることにつながってたり、あととりあえず一番他人にすすめたい本です


 《ルート5》地球⇔宇宙(時空間)




※ これも《秋の演劇フェア》で柴幸男さんに選書してもらった本です。この本はぜひぜひ!!!



宇宙授業

宇宙授業



JAXA職員による宇宙解説本、結構、宇宙本読みましたが宇宙の面白さや観測について一番わかりやすく楽しめるかも


 《ルート6》スイングバイ



高山 芝居上でのスイングバイは、それが「ここまではこの人がやって、ここからはあの人が引き継いで・・・」って、仕事を引き継いでパスしていくイメージになる。人を通過する時に仕事が大きくなるっていうか、次の人のところでスイングバイすると加速がついてさらに大きな仕事になるっていう。


菅原 稽古の進め方も、まさにスイングバイな感じですよね。柴さんが演出をつけたところを、役者たちみんなで型づくっていくっていう。


鈴木 スイングバイ航法といって、惑星の重力を利用して勢いをつけ、宇宙船が進むという航法があるんです。柴さんは、その動力と役者たちのチームワーク力とを重ねて考えているんじゃないかな。


菊地 「より遠くへ」という感じ。一回飛んだ星が、また次の星の重力でどんどんより遠くへ飛んで行く、そのイメージもあるんじゃないかな。

※ 俳優のコメントは、観劇時に配布される「社内報」より引用しました。









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