岡崎藝術座『古いクーラー』




  


《演劇》岡崎藝術座 本公演




タイトル: 古いクーラー


作・演出: 神里雄大

■■出演


武谷公雄  召田実子 


宇田川千珠子(青年団) 菅原直樹(青年団


中林舞(快快)  NIWA(ワニモール


菊川恵里佳  森本華



■■スタッフ


照明:黒尾芳昭(株式会社アザー)
音響協力:高橋真衣
舞台監督:鳥養友美
手話指導:米内山陽子(トリコ劇場)
演出助手:森下なる美(劇団森キリン)
翻訳:小畑克典 フォーンクルック幹治
宣伝美術:ART DIS FOR
写真撮影:富貴塚悠太
制作 寺田千晶/制作補佐:石川夕子 岡崎龍夫 森田瑞穂


■■日程


2010年11月19日(金)〜11月28日(日)



■■場所


シアターグリーン(池袋)



■■チケット


こちら





《感想文:俳優そのもの》




  


大バクチというかすごい勝負の仕方だと思う。



トークイベントでおにぎりの話が出てきたのだけど、


(1)味付けが塩だけのおにぎり


(2)焼きおにぎり


(3)キャビアとフォアグラとトリュフが入ったおにぎり

という3つなのだけど、



『古いクーラー』はずばり(1)



演劇って何でもできてしまうというか俳優がいて、台本があって、物語があって、舞台装置があって、音楽があって、照明があって、という感じだからそれこそ「キャビアとフォアグラとトリュフが入ったおにぎり」だって簡単に作れちゃう。しかし。



『古いクーラー』にあるのは「俳優と言葉」ただそれだけ。



『おにぎり』にあるのは銀シャリと塩」ただそれだけ。



ただそれだけに、評価は賛否両論



僕自身どういう感じだったかというと、何か悪い夢を見たような感じだった。1時間30分たっぷり、俳優の熱演を観たのに、始まりと終わりの静けさだけが体に記憶されていて、終わった時に何もなかったかのような気分になった(そんな訳ないけど)。



トークイベントで神里君が散々ツッコまれていたけど、「言葉はある」けど、「ストーリーはない」「意味もない」「面白くもない」すべり芸なのか!」と。



こりゃ、俳優も大変だろ。だってここで笑いがとれるとか、ここで泣かせるとかそういうポイントがあればいいけど、ただただ言葉が連なるだけだから、こりゃ、俳優も大変だろ。



ただ神里君もはっきりと言っていて、言葉の感触みたいなのをやりたかったと。イメージがあってそれを言葉にしたり、演劇にするんじゃなくて、言葉の意味を演技にするんじゃなくて、言葉そのものを演技にするって。



そう言えば確かにそうで、ちょっとネタバレになるけど、


ひゅー。ひや〜ァ。ヒヤシンス、風が吹いてきて、春の記憶が戻るものだなぁ。川のせせらぎが、せせらぐなぁ。にゃんにゃんにゃん。おや? 猫がこっちを向いて鳴いてるぞ。ここはいつから外になったんだろう、猫の鳴く午後5時。鳴くと言えばやっぱり猫だなぁ。川辺でゆっくりと時間が流れるものだなぁ。今日はうどんにしようかなぁ。にゃんにゃんにゃん、おや、猫もうどんを食べてるなぁ。あぁ、風だ。ひゅーぅ。風が気持ちいいなぁ。あぁ、まだ若い社会人が・・・


ほとんど語呂合わせというか、言葉が連なっていくというか、ズレていくというか、すべっていくというか、意味がない。



あんまりやりたくないフォローだけど、こういうことでもある。川上未映子


多和田葉子  川上さんのテキストを見ていても、漢字とひらがな、カタカナがどのように交代していくか、読点の置き方や文の終わり方、擬音語や擬態語の使い方も面白いですよね。「さこん、さこん」って、すごくいい。でも、それは「さこん」と声に出したときの音が、何かに似ているからではなく、「さこん」とひらがなで書かれた字面を見たときに感じるものがあるんです。



川上未映子  そうなんです。目に対してもそうですが、手書きにしてみても何度でも書けるような快感があります。



多和田葉子  そのインパクトは、擬態語だけでなく言葉全体の体系とか歴史とか何らかのかたちで感知しているところからでてきているんだと思います。そこが素晴らしいところです。漢字と仮名のほかに、数字もあるじゃないですか。「3月6日に拾ったからろくという名にしたのです」って。「むいか」と読むから「ろく」じゃないんだけど、「6」という数字があって、そのあと地の文に埋もれそうになりながら「ろく」という犬の名前がひらがなで出てくる。ひらがなの中からひらがなが匂い立ってくるような固有名詞の表れ方も面白かったです。



川上未映子  ありがとうございます。


ありがとうございます。川上未映子さん『六つの星星』(文藝春秋)でした。



確かに小説家はこういうことを考えているみたいで、言葉の意味ではなくて字面で感じるというのは、演劇だと言葉の意味じゃなくて俳優面で感じるというのかな。。。



確かに『古いクーラー』は俳優面で感じた!!!



皆さんも自分の眼で確かめてみてください。






あとはトークイベントの時、質問して神里君から面白い返答があったので書いときます。



神里君はラーメンの話をしていて、


(1)有り合わせの食材でおいしいラーメンをつくる



(2)食材を吟味しておいしいラーメンをつくる


神里君は自分では絶対に(1)というのだけど、明らかに俳優に関しては(2)。ものすごく吟味している。毎回そうなのだけど、今回も俳優はみんな実力派。初舞台の人がいると聞いたけど、誰が初舞台なのか、はっきり言って分からない。



それで俳優陣がうまいのはもう分かっていたので、わざと意地悪な質問をしてみた。口が悪かったのではあまりいい質問じゃなかったけど。



例えば、菅原直樹さん。彼がうまいのはもうみんな分かっている。それは観客も演出家も分かっている。それで神里君とトークイベントの前にちょっと話す時間があったので聞いてみた。すると「彼はうまいからできちゃうんです」という答えが返ってきた。それでその返答についてもっと詳しく聞いてみた。「彼はできているから、演出家は楽ができる。でもそれではダメなので。。。要するに彼の癖を認めるか、認めないかということなのだけど、彼には、そのまま演じてもらって、彼に気付かれないで彼を変えていくような演出をします」だと。



すごいよね。演出家と俳優の駆け引きって。こういう話を聞くとなんかワクワクしちゃうんだよね。



それで調子に乗ってもう1つ聞いてみた。というか愚問だったので聞いてしまったという感じだけど。



宇田川千珠子さんと中林舞さん。ふたりとも実力派の女優。特に宇田川さんが神里作品の『リズム三兄妹』で演じた「姉」は僕のなかでも3本の指に入る名演だった。すごく冷めた感じの役柄で、生きているのか死んでいるのかよく分からない役柄で、セリフがほとんどなくて、微妙な表情と目線と間合いだけで全てを表現するという、絶妙の演技だった。



それがすごく頭に焼き付いていたから、そのイメージを引きずったまま『古いクーラー』を観ていて、今回は『リズム三兄妹』とはまた違って、けっこうテンションが高い役柄で、今回は今回でやっぱりうまいなぁ〜って観ていた。



だけど、あとで中林さんが出て来た時に、キャラがかぶっているというか、演じるベクトルが同じ方向を向いているので二人が重なってきてしまうというか、ラーメンの話で言えば、チャーシューと角煮が両方入っているような感じで、味がケンカしちゃうというか、なんかもったいないというか、これは稽古を重ねるうちにチャーシューと角煮の味が混ざってきてしまったんじゃないかって、思った。だから神里君に率直に聞いてみたのだ。「これはOKなの?」って。



そしたら、神里君は即答。


大丈夫。似ていても、演じる役者が違えば、絶対に同じにはならない。個性がちゃんとでるし、違いがちゃんと出るから、これでOKです。


なるほど。さすがラーメンの達人だね。演出家ってやっぱりすごい。こういう話を聞くとなんかワクワクしちゃうんだよね。



それから俳優の武谷公雄さんが面白いこと書いてます。「俳優に答えはあるのか???」


  武谷公雄日記


みなさまもぜひぜひ!!



チケット↓↓↓


  こちら






  《岡崎藝術座 次回公演》


 街などない



■[出演]宇田川千球子・橋本和加子・武井翔子・菊川恵里佳 [舞台監督]鳥養友美 [美術]神里雄大 (ほか)


■会場:のげシャーレ(中区野毛町3-110-1 横浜にぎわい座B2F) 全10ステージ


■神里雄大ワークショップ 2010年12月〜2011年1月(発表会あり)





  《神里雄大 過去公演》


鰰『動け人間!


岡崎藝術座『リズム三兄妹


岡崎藝術座『ヘアカットさん


神里雄大グァラニー










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