風琴工房『無頼茫々』
《演劇》風琴工房
タイトル: 無頼茫々
作・演出: 詩森ろば
■■出演
板倉チヒロ 吉増裕士 栗原茂
酒巻誉洋 金成均 杉木隆幸
永山智啓 荒木秀智
桑原裕子 今藤洋子
とみやまあゆみ
たなか沙織 川村紗也
■■スタッフ
美術:杉山至 照明:榊美香
音響:青木タクヘイ 音響操作:竹下亮
舞台監督:小野八着(JET STREAM)
演出助手:大野沙亜耶
ヘアメイク指導:岩鎌智美 着付強力:帯の会
制作:一ツ橋美和(少年社中)
写真撮影:奥山郁 記録映像:西池袋映像
■■日程・場所
《感想文:前へ!前へ!》
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(1)
扱っているテーマ、時代背景を思えば、こんな言い方をするのは不謹慎かもしれないけれど、とにかく楽しかった☆
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(2)
もちろん、それは演劇だからの一言に尽きるけれども、現実をねじ曲げて楽しくしたのでは決してなく、ある意味、大正という時代は本当に楽しかったのかもしれない、人々が躍動する何かがあったのかもしれないと思わせるものだった。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(3)
風琴工房は初観劇だったのだけど、観劇のきっかけはここ最近観るようになったクロムモリブデンに出演していた俳優さんが出ていたから。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(4)
ただ、『無頼茫々』を観ようと思った本当の理由がもう一つ別にあって、それは大正時代という、今現在から一番イメージしづらい時代の空気を感じたかったからだ。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(5)
『無頼茫々』は、とある新聞社を舞台に、そこに関わる人々の躍動が丁寧に描かれている。新聞で「何かを書く、書かない」の判断がこれほど難しい時代はやはり他にはなかったのではないか。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(6)
もちろん今でも「何かを書く、書かない」の判断は難しいし、新聞各社の記事をじっくり読めば、各々の新聞社が各々の意図を持って記事を書いている、選んでいるということは実感できるし、それなりに世の中に影響も与えている。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(7)
しかし、戦前、特に大正時代の新聞における「何かを書く、書かない」が「明日死ぬかもしれない」もっと正確に言えば、「明日、殺されるかもしれない」と直結している時代は他にないだろう。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(8)
「明日、殺されるかもしれない」という思いと背中合わせで筆を執るというのはいったいどういうことなのか?
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(9)
『無頼茫々』という作品の一番の見せ所はまさにここであって、僕が一番注目していたのも、ここだった。では、詩森ろばさんはいかに描いたのか?
]【演劇】風琴工房『無頼茫々』(10)
詩森ろばさんはズバリ、人を描いた、人々の躍動を描いた。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(11)
ろばさんの描き方は、確かにエンターテイメント色が強く、「明日、殺されるかもしれない」という恐怖が薄れてしまった感もあるが、これはむしろ逆かもしれない。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(12)
つまり、単なる気晴らしではなく、「明日、殺されるかもしれない」という恐怖を乗り越えることこそが、エンターテイメントの本来の姿であるのかもしれない。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(13)
恐怖をシリアスに描けばそれでいいのか? 平和ボケした現代のわれわれに対してはそういったことも必要だろうが、何よりも大切なのは、その恐怖を乗り越える力を描ききることだと思う。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(14)
『無頼茫々』にはたくさんの人びとが出てくるのだけど、みんなみんな好きになってしまう。あっ、みんなじゃないか、伊澤は嫌いだけど、ほかはみんな好き☆
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(15)
注目すべきは女性の存在がすごく効いてきているという点。大正時代ってイメージしづらいのだけど、女性がいい意味であか抜けて来ている時代でもある。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(16)
大正時代、戦前の女性といえば、『あゝ野麦峠』に代表されるように過酷な長時間労働を押し付けられた女性労働者の悲惨な一面がまずイメージされる。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(17)
しかし、それだけはない。僕も調べていてちょっとビックリしたのだけど、例えば今和次郎の『考現学入門』などを読んでいると大正時代にはオフィスガールや銀ブラなんて言葉もすでにあったようなのだ。
※ 下記の写真は昭和9年の写真だが戦前の銀座の様子を知る事ができる。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(18)
『無頼茫々』でも高村紅子(とみやまあゆみさん)がオフィスガールってことになるだろうし、島津颯子(桑原裕子さん)、原口ちよ子(今藤洋子さん)のファッションが「モガ」(モダンガール)ということになるのだろう。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(19)
宮田多恵(たなか沙織さん)と冨永梢(川村紗也さん)は洋服ではなく着物を着ていたけれど、堅苦しい感じがなく、あか抜けていて、多恵は良妻賢母、梢はおてんば娘という今に通じる女性の姿がこのときすでにあったのかなと思った。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(20)
あっ、まー、今からみると逆に、洋服よりも着物を着た女性の方がすごく魅力的に映えて、すごく惹かれる☆
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(21)
対して男性陣は、やはり危機に直面しているなかで物事が動く動かないというのは、人びとの力によるのだなと感じさせられた。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(22)
まず堂海栄吾(板倉チヒロさん)、向こう見ずでどんどん前へ進んでいく若者。村嶋帰一(吉増裕士さん)思慮深く、冷静な判断で物事を進める人。秋川紫水(酒巻誉洋さん)、夏目漱石の後継とされる文人。文化的教養が世間に対して大きな影響力を持っていた。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(23)
大正時代の新聞というメディアはものすごくリアルで、「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」で言えば、新聞は会議室でこそこそ書かれるものではなく、限りなく現場に近い。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(24)
そして新聞に携わる人びともものすごく現場感覚が強い。やはり現場に近いから、人びとが生き生きしているし、観ているわれわれも彼らを信頼できるし、惹かれる。
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(25)
個人的には、堂海栄吾に惹かれた。板倉チヒロさんのあのまったく遠慮のない演技、それこそドラゴンボールに出てきそうなくらい元気な奴で(笑)、その快闊っぷりが眩しかった☆
【演劇】風琴工房『無頼茫々』(26)
なんていうか、プライベートがうまくいっていない時に観劇したから、「一人の女性を幸せにできないようじゃ男として失格だよなー」、「生きる価値ねーよなー」、なんて想いながら観劇していたので、板倉チヒロさんの演技がズドンときた。前へ 前へ !!
【演劇】 風琴工房『無頼茫々』(27・終)
『無頼茫々』は、僕じしんが演劇に救われているとつくづく実感する傑作でした。ありがとうございました☆
好評?連載中!こちらもよろしく!!
好評?連載中!こちらもよろしく!!