『火の顔/松井周(サンプル)』


《第1版》(2009年3月6日)



そうだ定額給付金で《演劇》観に行こう!!!

タイトル: 『火の顔』



演出: 松井周


作:  マリウス・フォン・マイエンブル


翻訳: 新野守広

 



■■出演


猪俣俊明 大崎由利子


岩井秀人(ハイバイ)


野津あおい 菅原直樹



■■スタッフ


美術:杉山至+鴉屋


照明:西本彩


衣装:小松陽佳留(une chrysantheme)


演出助手・ドラマトゥルク:野村政之


演出助手:成田亜佑美


舞台監督:鈴木康郎+鴉屋、寅川英司+鴉屋


舞台写真:青木司


宣伝写真:山本尚明


制作補佐:有田真代(背番号零)


制作:三好佐智子



■■日程・場所


2009年3月5日(木)〜 3月8日(日)


東京芸術劇場 小ホール1


■■チケット販売


フェスティバル/トーキョー09



《感想》




 



1.


のっけから私事だが、作者のマイエンブルグが私と頭の使い方が非常によく似ていたので嫉妬した。私がどっかしらの先生なんかしていて、彼が生徒だったらダメ出しをしたと思う。


「君、これをなぜ戯曲でやるの? これだったら論文で書けばいいじゃない。ロジックが前面に出過ぎなんだよ。分かってないなー。戯曲ってのはだなー、例えて言うなら、紅茶なんだよ。それでロジックは砂糖。 お客さんには紅茶を味わってもらうんだよ。砂糖を味わってもらうんじゃない。紅茶を味わいながら、ほのかな甘味も一緒に味わってもらうというもんだよ。君のは、瓶に角砂糖を詰め込んで、それにちょろっと紅茶を注いで『どうぞ!』ってなもんだ。もう一度書き直してこい!」


私が小説を書かない(書けない)のをざっと説明すればこういうことだから、それをあからさまにやられて腹が立った。でも一晩寝て冷静になったので落ち着いた。これは単なる文体の話であり、戯曲や小説だからと言ってロジックを前面に出して展開したら駄目だという訳ではない。これは個々の作家(文体)の癖の問題だから、これはこれでいいだろう。


私がこのような印象を受けたのは昨年観た『ハナノミチ』以来だ。奇しくもいずれも外国人作家。フランス人とドイツ人なので正反対とも言えるけど、私は似たような印象を受けた。 ただしかし、やはりこれは根拠のない大雑把な話だ。この手の文体が鼻につくというのは、単なる慣れの問題だろう。私自身、外国人作家の戯曲(小説)をもう少し読めば、克服できるように思う。



2.


さて、内容は非常に興味深い。特に松井周『家族の肖像』を観た人は必見だ。この作品で描かれた世界を思えば、松井氏が今回『火の顔』を演出した意味は非常に大きい。


『家族の肖像』では家族(概念)の揺らぎ、ひきこもり等の問題を露骨に見せてつけられたのだが、何か重大な事件が起こる訳でもなく、また何か状況を打破するような兆しも示されなかった。「逃げられない」ということだけが示された。


他方、今回のマリウス・フォン・マイエンブルグ『火の顔』も同じく家族の揺らぎ、ひきこもり等の問題を扱っている。しかし、こちらは決定的な出来事が発生する。その点からすれば、この作品は『家族の肖像』以上に露骨だ。観ていて辛い。しかも『火の顔』も現状を打開するような兆しは全く示されず、「止められない」ということだけが示された。


この二作品は、現状把握という意味ではいいのだが、観た者は本当に困ってしまう。「逃げられない」「止められない」と言われても唯々困ってしまう。「さて、どうする?」


まずは松井氏の『家族の肖像』以外の作品も掘り起こして比較検討してみるか。また実際に起こった事件(神戸少年殺人事件etc.)と比較検証してみるか。または文学作品の文脈で考えてみようか。先ほどの村上春樹氏の「エルサレム賞の受賞スピーチ」や、ケン・キージーカッコーの巣の上で』、映画『ノーカントリー』(原作:コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』)etc.と比較してみるか。


ともかくこの手の作品は今後さらに増えそうだし、それどころか乱発されるように思う。でもこの手の、現状報告、事例報告的ニュアンスの作品を乱発されても困る。だから、ちょうど今が、この手の問題に対する向き合い方を問いつめる時期なのかもしれない。



P.S.1


その他、松井周さんの演出を堪能できます。舞台美術や空間の使い方etc. あとフェスティバル/トーキョーの独特の雰囲気も味わえます。東京芸術劇場のエントランスホールの垂れ幕を見て興奮しました。甲子園球場での高校野球全国大会のような興奮です。阪神甲子園駅を降りて球場へ向かう、あの時の興奮を彷彿させます。


皆様もぜひ!!!



P.S.2


『サンプル(松井周)論』。もう少し時間ください。『火の顔』を観てしまったので、今考えていた書き方や結末が使えなくなりました。やり直しです。う〜ん、3月末日までには何とかしたいです。すみません。

※ photo by montrez moi les photos






 村上春樹「エルサレム賞・受賞スピーチ」


カッコーの巣の上で

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血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

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阪根タイガース


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