『トリツカレ男』




  アトリエ・ダンカンプロデュース》

タイトル: トリツカレ男



原作:  いしいしんじ


脚本:  倉持裕


演出:  土田英生


■■出演


  坂元健児 


  原田郁子クラムボン


  浦嶋りんこ 尾藤イサオ

  
  小林正寛  尾方宣久
  

  江戸川卍丸 大熊隆太郎 榊原毅
  

  鈴木美奈子 中村蓉 藤田桃子


【生演奏】青柳拓次



■■スタッフ


  振付:小野寺修二  音楽:青柳拓次 原田郁子  美術:奥村泰彦


  舞台監督:津田光正・川原清徳


  音響:ZAK・田鹿充  照明:増田隆芳 


  衣装:畑久美子  ヘアメイク:宮内宏明


  演出助手:根本大介


  宣伝美術:立川明


  運営:サンライズプロモーション東京


  票券:福田智美


  制作:島袋佳 


  プロデュサー:池田道彦  アシスタントプロデュサー:佐々木弘毅 


  企画製作:イープラス アトリエ・ダンカン



■■日程・場所


《東京公演》
2009年9月4日(金)〜13日(日)@天王洲銀河劇場


《福岡公演》
9月16日(水)19:00 @ZEPP福岡


《名古屋公演》
9月19日(土)13:00 / 17:30 @名鉄ホール


《大阪公演》
9月22日(火)13:00 / 17:30 @シアタードラマシティ
   


■■チケット販売


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 《感想文》音楽と演劇との幸せな出会い






原田郁子が舞台に出るというので天王洲銀河劇場に『トリツカレ男』を観に行ってきた。いわゆる演劇ではなく、またミュージカルでもなく《音楽劇》。《音楽劇》というのは、アフタートークで演出家の土田英生さんが出演している俳優陣に「音楽劇って何だと思う?」と執拗に問うたにもかかわらず、これといった答えが返ってこなかったように、まだジャンルとして確立していない未知の領域。


今回の『トリツカレ男』も音楽劇の完成品では決してなく、まだまだ思案中という感じだった。どうやったら原田郁子(音楽)と俳優陣(演劇)のポテンシャルをフルに引き出すことができるだろうか? 1+1が2ではなく、3になり、4になり、10へと化けるだろうか? ととことん考えて、ある程度は成功したけれども、まだまだ3にもなっていない、う〜ん、2.5ぐらいかな? という感じだった。


原田郁子の歌といしいしんじの物語(原作)との相性は良かったし、両者の独特の世界は十分に表現されていた。また尾藤イサオさんや浦嶋りんこさんといった俳優は舞台に立っているだけで演技になっているというか、その存在がビビビっと客席に伝わってきた。さらに、他の俳優も一様にレベルが高かったし、いわゆるミュージカルのダンスではなくパントマイムを取り入れたというダンスも面白かった。


それにつけても俳優というのは不思議な職能だとつくづく感心した。彼らはなんでもできるのか? 前衛的な演出で有名な三条会の榊原毅さんも出演していたので注目していたのだけど、三条会の作品とは全く違う本作品を戸惑った様子一つ見せることなく完璧に演じ切っていた。あっぱれ!


小難しいおじさんは別として、お客さんの8割方は女性と子どもだったので、彼女らには十分に楽しんでもらえたのではなかろうか。2時間を超えるのでやや間延びした感じがする点と7,000円というチケット代を考えると採点がもう少し厳しくなるかもしれないが。



ここからは小難しいおじさんのお話。


小難しいおじさんである僕が不満だったのは、全体構成が無難すぎるということ。全体は基本的に音楽のライブシーンと演劇シーンに分けられていて、お客さんにとってはライブと演劇の2つを1度に楽しめてお買得!という造りになっていた。たしかに原田郁子はヒロインでもあるので、演奏だけではなく演劇シーンにも出てきたのだけど、あれぐらいの絡みならば、音楽を聴きたい時はコンサートに行って、演劇を観たいときは劇場に行けばいいかなって思った。


あとミュージカルというのが、そもそもそういう作り方をするものなのかもしれないけれど、せっかくのダンスが物語の本筋を担うメインシーンではなく、補足説明的なサブシーンに集中している点が不満だった。厳しく指摘すれば、音楽と演劇とダンスがお役所的な縦割りになっている感が拭い切れなかった。


ただ、これは演出家やスタッフの問題ではなく、大規模な公演の運営面での問題なのかもしれない。小劇場の公演ならばもっと融通が利くのに、スポンサーや予算で動く大規模な公演の場合は、企画書を通すために、作品云々ではなく、キャスティングや組織をまず固めてスポンサーを説得する(○○が出演するので観客動員が見込めます!これだけの陣容で運営するので公演成功は間違いありません!)という手法がセオリーであり、また有名人を起用する場合はスケジュールがなかなか自由に組めず、「音楽劇」という斬新な企画を立てても思うように柔軟には創れないからではないか。以前、岡田利規や前田司郎といった小劇場を中心に活躍している劇作家(演出家)が新国立劇場で発表した作品を観たことがあるけれども、その時も同じような感想を持った。「ふだんはもっと自由にやっているのに、すごく窮屈な感じがする」と。


それはさておき、シンガーソングライターとして活躍している原田郁子が、ジャンルの壁を越えて、これまた一流のの役者陣と相まみえ、1つの作品を創るというのはすばらしいことだと思う。劇中のジュゼッペとペチカとの幸せな出会いのように、音楽と演劇とが本当の意味で《幸せな出会い》を果たす日が近いうちにくるような気がする。


今後が楽しみだ!



※ photo by montrez moi les photos










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