PANDAJOCKEY+ドリルチョコレート『奴らの影踏む千葉』









《演劇》PANDAJOCKEY+ドリルチョコレート




タイトル: 『奴らの影踏む千葉』



脚本・演出: 櫻井智也


■■出演


小野ゆたか(パラドックス定数)


川島潤哉


徳橋みのり(ろりえ)


川口雅子


後藤飛鳥五反田団


加藤美佐江


堀靖明


櫻井智也



■■スタッフ


舞台監督:印宮伸二 
美術:門馬雄太郎
音響:葵能人(ノアノオモチャバコ)
照明: 久保田つばさ
舞台写真:保坂萌
制作:田中のり子



■■日程・場所


2016年2月3日(水)〜2月7日(日)@シアター711 下北沢演劇祭参加作品






 《感想文:チーバくんがモチーフじゃないよね?》











千葉県のマスコットキャラクターであるチーバくんをモチーフにした作品ではなく、克美茂という実在した歌手をモチーフにした作品らしい。



千葉とかんけーねぇーじゃん!



ま、それは置いといて、この克美茂という人を僕はほとんど知らなかったのだけど、なんだかすごい人物だったらしい。克美茂役(劇中では千葉という名前)を演じた俳優の小野ゆたかさんがブログで人物紹介をしているのでそのまま引用する。


波乱万丈の生涯を生きた昭和の歌手「克美茂




家族がありながら愛人を囲い、散々貢がせた挙げ句に殺害、釈放後に復帰するが、数年後に覚醒剤で再び逮捕。数々の病魔に襲われながらもカムバックを図っていたが2013年に死去。ただ、周囲の評価は決して悪いものばかりではなく、折り目正しいきちんとした人だったとか。


紅白歌合戦にも出たことのある歌手でありながら、愛人に散々貢がせて、挙げ句の果てに、カムバックの足手まといになるから愛人を殺害って、おいおい、



人として最低だな!下の下の下だよ!!!!!



ま、このような人物は「最低!」と切り捨てるのが筋だけど、いざ取り上げるとなるとどうするか? もちろん正常な一般人とは切り離して、「一体どういう精神構造をしているんだ?」というように異常者と位置づけて、その内面を掘り下げる。前々回のMCR作品が、そんな感じだった。


死んだらさすがにいとしく思え


『死んだらさすがにいとしく思え』では、ヘンリー・リー・ルーカスというアメリカの連続殺人犯をモチーフにしていた。ま、結局はこの凶悪性が一体なんだったのかは分からなかったのだけど、ヘンリー・リー・ルーカスが「異常」であるということはすごく伝わってきた。




ヘンリー・リー・ルーカス



写真を見てもゾクゾクする。



あっ、この写真を見て思い出したけど、クロムモリブデン青木秀樹さんが『こわくないこわくない』で取り上げたカスパー・ハウザーもゾクゾクする。


クロムモリブデン




『こわくないこわくない』


青木さんが描くクロムモリブデンは、MCRとはまた違う方向にぶっ飛んでいるから、感想文はトンデモな感じに仕上がっているけど、それは置いといて、ちょっと写真見てよ!




カスパー・ハウザー



こわいわー!




いやー、よのなか、変な人がたくさんいるなー、こわいなー




でもね、今回はちょっと違ったんだよね。克美茂が人を殺害したという点ではやっぱり怖いのだけど、櫻井智也さんが描いたのはそこじゃなかったんだよね。櫻井さんらしい、櫻井さんならではの作品には違いないのだけど、そうじゃなかったんだよなー





克美しげる




克美茂って憎めないよなー、もちろんレコードのジャケットだから、「これは表の顔で裏の顔がまた別にあるんだ」って、「芸能人のプライベートの姿を見かけた時って、ムスッとした顔つきしてるじゃん!」って言われればそうなのだけど、いやー、そうじゃないんだよなー



あ、これも演劇つながりでイキウメの前川知大さんに教えてもらった本だけど、『戦前の少年犯罪』って本があって、その名のとおり、戦前の少年犯罪の記事を集めた本なのだけど、例えば、こんな事件が載っている。


昭和四年二月一九日〔9歳(満7〜8歳)が6歳を猟銃で射殺〕




岡山県御津郡の自宅で、男子(9)が隣家の男の子(6)を射殺。母親が三時のおやつにモチを出してくれたが、焼き方が悪いとわがままを云って食べなかった。そこへ遊びに来た六歳が「おまえが食べねば、わしが食べてやろう」と食べ出したので怒って、「毒が入っているのだから死ぬぞ」「撃ち殺すぞ」などと脅したが、「撃ってもよい」と六歳が云い返したので、父親の猟銃で頭を狙い撃ちしたもの。






戦前の少年犯罪

戦前の少年犯罪



ま、最近の子どもはキレやすいからなーって、戦前の話なのだけど、これは凶悪というのとはまた違う。櫻井智也さんが描く千葉(克美茂)もこんな感じで、こんな感じというのは突発的な衝動で殺したというのではなくて、殺害したという事実はあるけれども、その事実がカッコで括られているというか、どうでもいいと言ったら語弊があるけれども、そこを掘り下げても何もでてこない。そこじゃない。



千葉(克美茂)ってどうしようもない人物で、妻子がいるのに愛人をつくって、自分はほとんど稼ぎがなくて、愛人に貢がせて、そのお金を妻子に渡している、全く以て人として最低なのだけど、それなのに、なぜか成り立ってしまっているというか、、、



愛人も愛人で、なんでこんなどうしようもない男を好きになってしまって貢いでしまうのか? 妻も妻で、なんでこんなどうしもようもない男と別れようとしないのか? 克美茂には人を惹きつける力があるからなのか? 「愛人ー千葉(克美茂)ー妻ー子供」の関係が長くは続かなかったとはいえ、ある期間、この状態でバランスを保っていたのだから。



千葉(克美茂)という人物を認めるわけにはいかないけれども、昭和、戦後の混乱期って、こういう状況ってしばしば起こっていたのだろうなと想像がつく。一般的には旦那が稼いで妻子を養うというのがあるべき家族の姿だけれども、会社がつぶれたり、あるいは歌手や芸能人のように収入が安定しない、計画性を持ち得ない職業の人たちは、状況に負けてしまって養うことを放棄して家族を解散したり、愛人に走ったりすることもしばしばあるのだろう。又吉直樹の小説にも、ここまで酷くないけど似たような感じの人物が出てきたなー



今現在、平成28年は?



世の中がだいぶん整備されてきて、このような状況に陥る可能性は少なくなったとはいえ、まだまだ頻繁に起こるよなー



例えば演劇の人たちは、スケジュールに計画性を持てないから定職につけず、アルバイトをしながら舞台に立っているであろうし、ベンチャー企業に勤める僕もいつ会社がつぶれるかわからないから、つぶれたら知らんけど、会社がある間は頑張ろうという刹那的なモチベーションで働いているのは否めない。



多かれ少なかれ、みんな人生綱渡りだよなー





あっ、ついつい長いこと、物思いにふけてしまった。





ま、これも演劇ならではの貴重な経験だよなー




日曜日の昼間にみる内容じゃなかったけど、日曜日の過ごし方としてはよかったんじゃなかろうか。



あ、あと俳優がよかったので感想!




俳優の感想!




【小野ゆたかと川島潤哉


今回、主人公の千葉(克美茂)役を小野ゆたかさんと川島潤哉さんのふたりがダブルキャストで演じていた。妻子といるときの千葉と愛人といるときの千葉を一人の人間でありながら別々の人間として描くというような狙いもあったのだろうけど、それほど明確な役割分担をさせてはいなかった。ただ小野さんは正面からガツガツいくようであり、川島さんは柔らかくかわすようであり、同じようなセリフでも表現の仕方が微妙に違っていた。多重人格というような分かりやすい人間像ではなくて、もっと微妙なところを捉えていたように思う。興味深い。

【徳橋みのりと川口雅子】


ふたりとも前回のドリルチョコレート『禊百景』にも出演していたけれども、今回の方が断然魅力的であった。前回はテンションが一様というか、身に迫るものはあったけど、迫るだけという感じだった。対して、今回は、妻子がいる男の愛人と、愛人がいる男の妻という、常軌を逸脱した状況下の女性のゾクゾクする感じがすごく出ていた。徳橋みのりさんと川口雅子さんが他の作品でどんな演技をするのか観てみたいと思った。

後藤飛鳥と加藤美佐江】


千葉の娘と息子を演じたふたり。このコンビもヤバかった。後藤飛鳥さんは少女役がハマリ役で今回もそうだったのだけど、今回は少女としての一面と、女性としての一面の両方が出ていた。かわいらしい瞬間とゾクっとする恐ろしい瞬間が同居していた。そして今回はむしろ後者に惹かれた。これは観ているこちらも悪いのだろうけど、『いやむしろわすれて草』以来、「後藤飛鳥=少女役」というイメージを持ち続けてしまっているのだけど、それが逆に後藤さんの演技の幅を狭めてしまっているのかもしれない。今回で言えば、徳橋みのりさんや川口雅子さんが演じた役を後藤飛鳥さんが演じてもよかったのかもしれない。そんな作品も観てみたいと思った。



加藤美佐江さんは、今回間違いなくNO.1 !!


物語のメインじゃないところでこれだけ持っていくとは! 演技って単にまじめに勉強したらいいって訳じゃなくて、いい意味での不真面目さが必要というか、ま、才能だよなー、今回は櫻井さんとの絡みがなかったので、いつかガチで絡んでほしい(笑)

【堀靖明と櫻井智也


安定のハイテンション!


堀靖明さんはあれほど激しくセリフを吐きまくったら、1回舞台に立つだけでどんだけカロリーを消費するのだろうか? けっこう頻繁に舞台に立っているからもっと痩せそうだけどなー、でもやせてしまうとあんな演技できないからなー、安定のデブ(汗)、気にせず深夜にラーメン食べてください(笑)


櫻井智也さんは貫禄ですな。安定の脱力系に今回はうさん臭さも加わってキレッキレだった。櫻井さんを観ると、こちらも肩の力が抜けてきて、日頃の緊張感から開放されて楽になる。


はい、感想文としては冗長でイマイチでしたが、とにかく帰りの電車でも、家に帰ってからも、物思いにふけったよ。



いろいろあるよなー



ま、とにかく、明るく、前向きに、がんばろう!





ビーバッパパラッポ〜パッパッパラッポ〜 一発屋上等!!









熱演ありがとうございました!!