北九州芸術劇場プロデュース『彼の地』









《演劇》北九州芸術劇場プロデュース




タイトル: 『彼の地』



脚本・演出: 桑原裕子


■■出演


岩本将治  大神拓哉(企画演劇集団ボクラ団義)


尾崎宇内  佐藤恵美香(飛ぶ劇場)


椎木樹人(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)


上瀧征宏  高野由紀子(演劇関係いすと校舎)


高山実花(モンブラン部) 高山力造(village80%)


寺田剛史(飛ぶ劇場)  服部容子


平嶋恵璃香(ブルーエゴナク) 美和哲三(14+)


吉田砂織(川笑一座) リン(超人気族)


脇内圭介(飛ぶ劇場)


若狭勝也(KAKUTA)佐賀野雅和(KAKUTA)異儀田夏葉(KAKUTA)



■■スタッフ


美術:田中敏恵
照明:岩田守
音響:雑賀慎吾
衣装:真行ひとみ(black2id)
演出部:山本祥太
    早樋寛貴(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)
照明操作:大崩綾 遠藤浩司
音響操作:松岡大志郎
演出助手:守田慎之介(演劇関係いすと校舎)
テクニカルマネージャー:吉田敏彦
舞台監督:森田正憲(F.G.S.)
大道具:F.G.S.
宣伝美術:トミタユキコ(ecADHOC)
宣伝写真:重松美佐
宣伝ヘアメイク:橋本理沙(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)
ポスター貼り:プスターハリス・カンパニー
広報:松本京子
票券:松岡美純
制作:黒崎あかね 安部智子 千葉乃梨子
プロデューサー:能祖将夫
劇場支配人:濱野佳代子
劇場顧問:津村卓



■■日程・場所


【北九州公演】
2016年2月2日(火)〜7日(日)北九州芸術劇場 小劇場


【東京公演】
2016年2月12日(金)〜14日(日)あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)





 感想文:「場所」


北九州の土地柄なのか? 桑原裕子さんの人柄なのか? 出てくる人びとのひとりひとりから、俳優の演技のひとつひとつから、何とも言えない温もりが伝わってきた。ノスタルジーというのとはまた違う温もり。



これは何だろう?



僕にとっては、北九州という場所に思い入れがまったくない。行ったこともないし、門司にしろ、八幡にしろ、若松にしろ、戸畑にしろ、かつて製鉄所や港が栄えていたということは日本史の教科書を通じて知っているけれども、今はどうなんだろう?



また中心部の小倉についてはTOTOの本社があるというのを建築の仕事をしていたから知っているけど、他にどんな企業があるのか? 町の経済がどうやって成り立っているのか? よく知らない。



あっ、そう言えば、北九州市立大学という大学があって、めったに出てこないのだけど、全日本大学野球選手権に出てきた年があって、その時投げていたのが中田賢一という投手で、「このストレート持っていたらプロで通用するだろう」と神宮球場のバックネット裏で観ていて、当時で言えば、一場投手に続く高評価を与えたら、中日のスカウトが取って、プロ入りして、10勝をあげる投手にまで成長して、今はチームが福岡ホークスに変わったけれど、まだ現役で投げ続けている。ちなみに彼は八幡高校出身。





中田賢一投手




ま、こんなマニアックな話をしても誰も反応しないだろうし、多くの人びとが、僕と同じように、北九州という場所に親近感をもったり、愛着をもっていたりということはないだろう。しかし、にもかかわらず、北九州をテーマにした『彼の地』という作品は、僕のこころに響いてきたし、多くの人びとにも響く。



なぜだろう?



例えば、演劇や小説で「恋愛もの」というジャンルがある。「恋愛もの」はよく読まれるし共感される。僕もブログで日記を綴っていて、誰に読んでもらおうというのではなく、日々のこころの動きを記録するという趣旨でやっているのだけど、ふだんはほとんどアクセスがないし、渾身の劇評を書いてもアクセス数は大して伸びないのに、失恋したときの日記のアクセス数はぐぐっと伸びた(笑)。だから、「人の気持ちを惹きつけようと思ったら恋愛ネタの一つや二つ書いたらいいんや」という邪心が働いて、その手の作品がよのなかにちらほら出回っているので、「恋愛もの」は下に見られがちだ。しかし誰もが経験しているというか、いろいろ考えたり、自分たちだけのドラマがあったり、運命を感じたり、個々人がみなそれぞれの恋愛観を持っているからこそ共感されるのであり、恋愛は人が生きていく上で切っても切れない根源的なものなのだろう。決してバカにできない。



それで『彼の地』が「恋愛もの」なのかと言えば、そうと言えなくもないけれど、言うなれば「場所もの」。そのようなジャンルがあるのかないのか? よく分からないけれども、『彼の地』を観て、「場所」というのは人が生きてゆく上で、人に対してとても強く作用してくるのだと改めて感じた。「恋愛」と同じく「場所」も、人生において、切っても切れない普遍的なテーマなのだ。



『彼の地』には様々な人びとが出てくる。北九州に留まり続ける人、東京から来た人、外国から来た人、逆に北九州から出て行った人、出て行ったけれども戻ってきた人、北九州との関わり方には色々なパターンがある。さらに北九州にいても、サラリーマン、お店をやっている人、ヤクザ、精神を病んで入院している人などなど。いろいろな人がいるけれど、やっぱりみな何かしら北九州という「場所」とつながっている。



僕も住む「場所」をこれまでにいくつか変えてきた。高校までは神戸にいて、大学への進学を機に東京に出てきて、卒業後都心が嫌になって、相模原に引越した。Jターンというのか、都落ちというのか? 神戸にいたときには相模原に住むとは思っていなかったし、縁もゆかりもない場所だったけれど、けっこう居心地がよかった。ま、事情があって最近また23区に引越してきたけれど。



それで、僕の話はどうでもいいのだけど、誰に聞いても、その人の人生と「場所」というのは強い関わりをもっていると感じられる。例えば海外で生活している人の大半は日本の企業に勤めていて海外勤務を言い渡された人で、そのような企業に所属しているからこそ海外で仕事をして生活ができるのであり、その場所と本当に関わっているかといえば怪しい。しかし、そうであっても聞くところによると、その人の人生に海外で生活したということは大きな影響を与えているらしい。グローバル化の影響で世界中どこへ行っても大して変わらなくなってきたとはいえ、それぞれの「場所」はやっぱり異なるし、そこに住む人びとと密接に関わっている。



「住むんだったらどこに住みたい?」



と問われて、「ハワイ!」とか「沖縄!」ってすぐに答えてしまうのだけど、それは暖かいところでのんびり暮らしたいという幻想であって、実際に仕事をしてということになると現実味が一気になくなる。ハワイでする仕事というのはまったくイメージできないし、村上春樹のように小説を書いて過ごせるならいいけど、そんなことはまずないし、あるいはヤングエグゼクティブがビジネスを成功させて収入を確保した上で、ハワイに移住するということはあっても、僕にそんなことができるとは思わない。それに例え、僕が村上春樹やヤンエグになったとしても自分の営みとその場所が関わりを持っていなければ、生きている心地がしないのではないかと、そのようなかたちでハワイに住むことを否定的に思ってしまう。



それでは、「僕はなぜ東京にいるのだろう?」



『彼の地』を観劇して、そのような疑問が沸いてきた。正直に言えば、特に理由はない。どちらかと言えば消去法であり、他の場所に住む理由がないからというのが正直なところ。すごく淋しい意見だ。



そうではなく、なにか、もっと積極的な気持ちで東京に住むか、あるいはもっと積極的な気持ちで他の場所に移り住みたい。そうするために『彼の地』に出てきた人びとが、何かしらのヒントを与えてくれたように思う。





《作家・俳優》についての感想




本作品は、九州で活動している俳優とそれ以外の地域で活動している俳優が混ざっているのだけど、意外なことに、両者の区別がほとんどつかないくらい溶け込んでいた。いかにも九州って見せつけるような感じがなかった。でも九州っぽさがない訳でもなかった。また、「これは九州ではなくて東京でしょ」ってことはなく、やっぱり九州だった。



なぜ両者がああも溶け込んだのか?



作・演出の桑原裕子さんは九州出身ではなく東京出身らしい。でも東京とは言っても町田だから一般的にイメージされる東京ではない。僕も相模原に住んでいたから何となく分かるけど、町田・相模原・八王子というのは都心に通勤している人もいるけれど、地元で働いている人が多い。大手メーカーの工場がけっこうあって、中小の工場も多い。人びとの動きが郊外というほどは都心を向いていない。町田は小田急も通っているから郊外という感じもするけれど、町田駅相模原駅八王子駅は地方都市の駅前の雰囲気がすごく出ている。このあたりは首都圏だけれども地方都市の趣きが強い。



そういったこともあって、桑原さんをはじめとする九州以外のメンバーも北九州という「場所」にすぅーっと溶け込んだように思う。アフタートークで桑原さん自身が、「町田で生まれ育った自分は北九州とは通じているけれども、ヒルズ族やオシャレな代官山を舞台にした作品を書けと言われたら書けないだろう。書いてみたいけど(笑)」と言っていた。



『彼の地』は出演者が19名という大所帯にもかかわらず、阿吽の呼吸で役者同士が動くという一体感があって、また舞台を包み込んでいたあの温かい雰囲気は、北九州という場所の雰囲気であり、なんとも言えない桑原さんの人柄が出ていたのだと思う。俳優陣がみんな桑原さんを信頼していて、姉貴として慕っているというのが客席にいる我々にも感じられた。僕の勤めている工場にも似たような雰囲気の人がいるけれど、桑原さんは茶目っ気たっぷりでありつつも佇まいは凛としていて、むかしレディースの特攻隊長でもやっていたのではないかと思わせるような人望の厚さと統率力! いやいや桑原さんはやっていないと思うけど(汗)、元隊長クラスの人ってすごく優しいんですよ。ホントそんな感じ(笑)。



そういった温かい雰囲気がどこからともなく出ていたなー



さて。俳優では九州を地盤に活躍する高野由起子さんや脇内圭介さんが印象的だった。「九州=九州男児=気質が荒い」というイメージではなく、すごく「柔らかくて優しい感じ」が伝わってきた。



それからランクをつけるのはよくないけれど、



本作品のNO.1は異儀田夏葉さん!!



異儀田さんは北九州ではなく埼玉の出身のようだけど、桑原さんと同様に、北九州との相性がものすごくいいのだと思う。何度か観た異儀田さんの作品のなかでも、本作品が一番しっくり馴染んでいたように思うし、北九州に居ることで、東京にいる異儀田さん以上に異儀田さんらしい異儀田さんが発見されたように思う。




いい観劇でした☆




ありがとうございました!!













阪根タイガース


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