梅舟惟永企画『ありがとねえ!』
《演劇》梅舟惟永企画
公演タイトル: 『ありがとねえ!』
(1)タイトル:『ジョニー』
作:池田鉄洋(表現・さわやか)
(2)タイトル:『仲良きことは』
出演:川村紗也 梅舟惟永(ろりえ)
(3)タイトル:『春告花』
作:奥山雄太(ろりえ)
出演:斎藤加奈子(ろりえ) 梅舟惟永(ろりえ)
(4)タイトル:『父はマニラに行きました。』
出演:鹿野真央(文学座) 斎藤加奈子(ろりえ)
梅舟惟永(ろりえ) 川村紗也
■■スタッフ
構成・演出:奥山雄太
舞台監督:土居歩
音響:田中亮大(Paddy Field)
照明:南香織(LIGHT-ER)
演出助手:福名理穂(ぱぷりか)大貫隆行
音響操作:大貫隆行
照明操作:鐸木のすり
音楽:なかじまみのり
記録映像:下山天 吉原通克 横山翔一
宣伝美術:徳橋みのり(のりえ)
宣伝写真:タイコウクニヨシ
宣伝メイク:西ヒロコ 高石涼太
当日運営:土肥天
制作協力:会沢ナオト
制作:ありがとねえ!制作部
制作協力:ろりえ
企画・製作:ありがとねえ!実行委員会
■■日程・場所
2016年2月11日(木・祝)〜14日(日)早稲田どらま館
感想文:「バレンタインデーにありがとねえ!」
バレンタインデー
劇場を出たら、まるで春のようなポカポカ陽気で、電車に乗ってそのまま家に帰るのもつまらないから、一駅前で降りて散歩しながら帰った。いつもだったら鯛焼きを買うのだけど、きょうはアイスを買って歩きながら食べた。「バレンタインデーだかなんだか知らないけれど、きょうはチョコなんかよりもアイス のほうが美味しいにきまってる!」とぐっとコーンカップを握りしめ、舌を研ぎ澄ませてアイスを味わった。やっぱり美味い。なんど舐めても美味い! このような結末を誰が予想したことか! 俺はついに勝ったぞー!!
ありがとねえ!
そしてアイスをぺろりと食べきったあと、劇中のあのつぶやきが忘れられなくて、というか単にお腹がすいたからだけど、ラーメン屋に寄って、ラーメンは頼まずに、炒飯だけ頼んで食べた。やっぱり美味い!
ありがとねえ!
素晴らしい一日でした。
ありがとねえ!
さて。俳優である梅舟惟永(うめふね・ありえい)さんが企画した公演『ありがとねえ!』を早稲田小劇場どらま館で観劇した。俳優が企画する公演というのは非常に珍しく、本公演に参加している俳優の川村紗也さんが自ら立ち上げたユニット《僕たちが好きだった川村紗也》で公演を行っているくらいではないかと思う。
このように希有な公演である『ありがとねえ!』は、俳優が起点となっている公演ということもあって、俳優の魅力を存分に味わえる内容であった。今更ながら、
「女優とは演技で表現する人なのだ」
と出演した梅舟惟永さん、川村紗也さん、鹿野真央さん、斎藤加奈子さん、四名の女優の四者四様の演技を観てつくづく思った。
「えっ? 人っていうのは演技ひとつでこうも自在に変われるのか!」
と始めから終わりまでずっと目が点になったままであった。
足が長くてすらっとした女性が客席の階段を降りてきたので、モデルさんが観劇にきたのかと思ったら、そのまま舞台に登ってしまったので、「おやっ?」と思って顔をみたらポスターでいつも笑っている人だった。梅舟惟永さんの実物を初めて観た。
「ああ、この人が梅舟さんかー」
舞台で視線を持っていかれたのは、ナイロン100℃で観た小池栄子さん以来かなー
でも容姿端麗だからといってお高くとまるという感じではなくて、演技は手抜きなし、常に全力投球、恋愛ドラマのヒロインからスポ根までなんでもできそう。
エネルギッシュ!
対する鹿野真央さんも負けず劣らず魅力的。キャビンアテンダントや社長秘書のような高貴な雰囲気を漂わせつつ、女性の持つ可愛らしさやズル賢さをしなやかに演じていた。そしてやはり、
エネルギッシュ!
そしてストーリーはというと、桑田佳祐の『波乗りジョニー』をテーマにしたいと梅舟さんが池田さんにリクエストしたらしいけど、池田さんが梅舟さんによくよく聞いてみると、何か深い思い入れがある訳ではなく、
つい、こないだ街で流れているのを初めて聴いて、いいなあって! もう、パーッとなにかがひらけた感じがして!もう、なんとなくです!
だって(笑)。
あっ、たしかに、パーッとひらけた感じがするする!
で、物語の舞台は鵠沼海岸で、サーフィン大会にジョニーがでるとかでないとか、『波乗りジョニー』と関係なくはないけど、はっきり言ってもう全然関係ない(笑)ジョニーに恋する乙女となぜかその子に絡まれることになったもう一人の乙女。その子は彼氏に初めて水着姿を見せようとウキウキした気持ちで海にきたのに、「ジョニー!ジョニー!」と鵠沼海岸の着替室で愛を叫ぶ女に言いよられて、、、そんな恋するふたりの乙女が延々となじり合うドタバタ喜劇!
はぁー、まったく、なんなんだ、こいつらは….
ちゃんちゃらおかしいから呆れて物が言えないのだけど、ふたりの乙女の感情の起伏、表情の変化、イニシアティブをとる・とられるの駆け引きが滑稽であり、可笑しくて思わずクスクス笑ってしまって、なんだかまるで激しい荒波をサーフボードで疾走するような爽快感があった!
そして最後には…
あっちゃー
『ブロークバック・マウンテン』をこれでもか! というくらいにくだらなくした感じかな(笑)
(2)『仲良きことは』作・喜安浩平 出演:川村紗也 梅舟惟永
舞台はスタバ。これまたふたりの乙女が延々と繰り広げるガールズトーク。仲良いふたりのなんでもない会話が延々と… すでにスタバに3時間もいるというのだから、、、
おいおい、まだ話し続けるのかよ。
いったい何時間店にいるつもりだよ。友達の結婚式に出るとか出ないとか、スタバの店員さんがどうだとか、お互いに彼氏がいるとかいないとか、もうどうだっていいじゃないか、どうしてこの程度の話題で3時間も話し続けられるんだよー
で、
延々と話し続けて、ひとの悪口を言ったりしていると、仲の良いふたりがお互いにお互いを疑い始める。
「えっ? もしかして彼氏いるの? 私に隠してない? ね、本当に隠してない?」
いやー、ちょっとしたボタンの掛け違いから疑いはじめてしまったら、どんどん行っちゃうよねー、だって本当のことは絶対に分からないのだから無限後退の負のスパイラルだよ。
ひぇぇえええええええーーー
女の子の仲良し2人組っていうのはよく見かけるけれど、「そのふたりの関係がどう保たれているのか?」って異性からは謎だし、女性同士でも理解しえないことってあるよね。そのあたりの真理をうまくついた会話劇でした。
で、
この作品でも一番面白かったのはふたりの女優の演技力。梅舟さんは先ほどのハイテンションな駆け引きとはまた違って、一見、女子大生やOLにいそうなふうで、でも時々、かぁあああーっと熱くなって判断力を失ってしまうおかしな子(笑) 対して川村紗也さんはクロムモリブデンの『こわくないこわくない』以来、彼女の演技を何度か観ているけれど、今回のようなどこにでもいそうな女の子を演じるのを観るのは初めてだったから、今までとはまた別人に見えて新鮮でした。こちらもちょっとおかしな子なのだけど、間のとり方や含みの持たせ方が絶妙でした。
(3)『春告花』作:奥山雄太 出演:斎藤加奈子 梅舟惟永
この作品は、他の作品とはだいぶん毛並みが違った。30分のショートストーリーで演じきれるような内容ではなく、2時間くらいの作品に仕立て上げてようやく語れるというくらいの壮大な話。作者は《ろりえ》の奥山雄太さんで、僕は《ろりえ》をまだ一度も観劇したことがないのだけど、他の作品も観たくなる非常に興味深いテーマだった。
テーマは同性愛。昨今、同性愛に対する理解は深まりつつあって、男性同士、女性同士が付き合うことには「ま、いいんじゃない」という感じで受け入れられるけど、彼ら、彼女らが年をとって死ぬまでの一生というのを、はっきり言って全然想像したことがなかった。奥山さんはそこを描いた。
同性のカップルであっても、当然別れることもあるだろうし、別れた後にすぐに恋人がみつかるとは限らないし、あるいは同性同士でいても家族が増えることはないから、どんなに相手を好きであっても、しばらくするとやっぱり子どもが欲しいという思いに駆られることもあるだろう。
そりゃ、あるだろう。
この作品によって、いままで考えたことのない盲点をつかれたというか、そういった問題を今後考えていかねばならないよな、と思わされた。
そして、本作品でいえば、斎藤加奈子さんの演技が圧巻だった。同性愛者の若いカップル時代と別れて独り身になった老年時代をたった30分の間で、瞬時にスイッチを切り換えて演じきる力に感服した。そして特に老年期の姿に心を打たれた。
いやー、これ、けっこういい作品だよなー
『ジョニー』はともかく(笑)、この『春告花』は、『ブロークバック・マウンテン』に匹敵する大作になる可能性を秘めた良作だと思う。
(4)『父はマニラに行きました。』作:岩崎う大 出演:鹿野 斎藤 梅舟 川村
本作品は、四人姉妹の会話劇。
鹿野真央(長女)
斎藤加奈子(次女)
梅舟惟永(三女)
川村紗也(四女)
実際の年齢の順番は分からないのだけど、鹿野真央はいかにも長女であり、斎藤加奈子さんはいかにも次女であり、梅舟惟永はいかにも三女であり、川村紗也はいかにも四女であった。
不思議だよなー
こういうのを観ていると人間っていうのは、演技で本当にどうにでもなれてしまうのだと思うし、演劇を観る本質的な楽しみ方が分かったような気がした。
ストーリーは、母親を10年前に亡くした父親が新たなパートナーをみつけて、突然マニラに行ってしまったというもの。四姉妹が実家に集まって、その事実を全員が知ったことによって、様々な会話が飛び交う。四姉妹それぞれの性格が出て、たくさん発言する人がいれば、全然発言しない人もいる。それぞれの役割が、誰が言うでもなく、なんとなく自然にきまっていく。家族のつながりが揺らいだり、バラバラになったり、また寄りを戻したり。
人間関係の微妙な変化を表現するのは、やっぱり演劇が一番!
ふたたびバレンタインデー
きょうは2月14日バレンタインデー
そんな日に、男ひとりで女性だけがキャスティングされた公演を観に行くのだから、下心がまったくないとは言えない。はい、それは認めます。
でも女性だからといって鼻の下を伸ばして観ていたわけではなく、観劇していて惹かれたのは、彼女たちの「演技」であった。
演劇の魅力は演技にあり!
そんな演劇の原点に、僕を導いてくれた素晴らしい公演でした!
熱演ありがとねえ!
そして、お疲れ様でした!
温泉にでも行ってゆっくり体を休めてください。
では最後に本公演のテーマソングを!
《追記》俳優が企画する公演について
劇団を主宰する劇作家や演出家が公演を立ち上げるというのが一般的であり、今回のように俳優が公演を立ち上げるというケースは非常に珍しい。俳優が自ら企画して公演をするとなると、これはもう俳優の職能の範疇を超えており、賛否が分かれると思うが、私は賛成する。
私はあくまでも観客という立場でしか演劇を観ていないが、劇作家・演出家が企画して公演を立ち上げるスタイルにも良し悪しがあるように客席で観ていても感じる。端的に言うと、俳優にとっての自由度が極めて低いと感じるのである。
劇作家・演出家が企画して公演を立ち上げるというスタイルは、劇作家・演出家と俳優とが二人三脚で成長しているときは良い。両者の性格上、俳優は職人肌であり、自分の演技に没頭するタイプが多いだろうし、劇作家・演出家にはリーダータイプが多く、公演を企画するという意識が常に働いている。だから通常はこのスタイルがうまく機能している。
しかし問題だと感じるのは俳優の成長にとって、しばしば不都合が生じるということである。劇作家・演出家と俳優、両者の成長の足並みが必ずしもそろう訳ではない。例えば劇作家は自らの成長の場を演劇から小説や映画へと拡げてゆくこともあろうし、成長が止まってしまうこともある。その場合、俳優は新たな活動の場を求めてオーディションを受けたり、事務所と契約してオファーを待つということになる。たいてい俳優は柔軟に対応して、どのような作品であってもきっちりと役をこなすだろうが、自分の成長に結びつかない、正直出たくない作品に出ねばならないことも多々あるだろう。
また俳優の職能は、劇作家や演出家が要求する演技をいかに為すかであるが、ただ単に言われるままにやっていたら、やはり駄目であろうし、自らの意思も示さねばならないと思う。しかし、この意思の示し方が俳優にとってはものすごく難しいようだ。俳優は表現者であり観客に与えるインパクトが強いから、一見意思の強い人に見られがちだが、台本がなかったり、演出家がいなければ何もできないという人もいる。極端な話、職能による一種の人格障害の兆候を示しており、学習能力は異常に高いけれども、自らの意思で行動する能力が極端に低い、そんな俳優もいるように思う。
やや踏み込んだ話になってしまったが、演劇界全体の発展、健全性を考える上でも俳優の意思表示がなされるチャンスが、公演を営む仕組みのなかにもあったほうがいいし、今回のように俳優が企画する公演というのがもっとあっていいと思う。当然それを実現するのは大変だし、難しいし、失敗のリスクも高いので、公演数としては数えるほどしかないだろうが。
そういう意味でも今回の梅舟企画『ありがとねえ!』は非常に興味深い公演であった。
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